daitai art mapについて
いま、日本列島の各地で、無数のボトムアップな活動が芽吹き、根を張り、それぞれの土地に根ざした文化や運営のかたちを育んでいます。
これらの営みは、私たちが無意識のうちに前提としてきた資本主義的な社会や組織運営の枠組みにとどまることなく、助け合いながら、運営の方法そのものを発明し、実践することで、独自の進化を遂げつつあります。
ある人はリサイクルショップのオーナーや大工として、ある場所は学校やギャラリーとして、ある団体は農場や災害の伝承館として、またある芸術祭は渓流の流れや寂れゆく商店街の中で活動しています。こうした特異な取り組みが私たちに投げかけているのは、私たちの「美術観」や「文化観」、そして「価値観」そのものが、既存の美術制度やインフラ——つまり集権的な条件に依存した上で形成されてきたのではないか、という問いです。
それぞれの活動に触れることは、「絶対的な」組織の運営形態や制度、社会のあり方、価値観といったものが、実のところ存在しないことを知ることでもあります。
さらに言えば、その代替案は、なにか大きな政治的変化を待つまでもなく、すでに彼ら彼女らの手によって、日々の実験の中に生み出され、そしてすでに実装されている、という社会そのものの変化でもあります。
マップ
daitai art mapは、日本列島各地に点在する無数のオルタナティブなアートスペースや芸術祭、芸術的な営みをマッピングし、アーカイブしていくプロジェクトです。
対象とするのは、アーティストやキュレーター、カルチュラルワーカー/アクティビストたちによる、ボトムアップな活動です。
一方で、既存の美術制度の枠組みにある場は、すでにさまざまに可視化されていることから、本プロジェクトの主要な対象ではありませんが、リサーチャーがここに取り上げるべきと判断した事例は、積極的に検討の対象としています。
私たちの調査でも、すでに列島の隅々にまで広がる数多くの活動が確認されており、そのすべてを網羅するのは不可能であることを前提としています。
また、それぞれの活動に対して私たち運営側が中立的·客観的に記述することにも限界があるため、本プロジェクトでは、各地で活動を行うアーティストやオーガナイザー、このテーマに関心を寄せるキュレーターなどにリサーチャーとして参加していただき、彼ら/彼女らが重要だと感じるスペースや活動、自らの取り組みについて、主観的に執筆していただく形式を採用しています。
そのため、マッピングされている活動の美学はそれぞれであり、既存の美術の評価軸に統一されているわけではありません。
2025年5月の第1回ローンチに向けては、イニシエーターである卯城がリサーチャーに声をかけ、さらにそのご縁から紹介いただいた方々に執筆をお願いしました。
第2回以降の更新に際しては、リサーチャーの構成やお声がけの方法·布陣も変化していく予定です。
特集
特集記事では、掲載された活動をめぐるツアーの実施や、各テーマに紐づいた批評記事の掲載を予定しています。
また、アートの枠を越えて、ボトムアップなコミュニティ形成をリサーチする社会学者、思想家、経済学者、都市研究者などを迎えた対談·座談会の開催、各地の活動者どうしの交流の場も企画しています。
こうした活動が全国に広がってきた背景には、日本の美術史における地方画壇の広がりやアンデパンダン展の発生、地方美術館の隆盛、さらには地域活性化を目的とした多くの芸術祭の誕生といった、日本独自の歴史や文脈があります。
1世紀以上にわたって積み重ねられてきたこの歴史をたどることで、今の活動の“地層”が見えてくる——そんな視点から、日本美術史·地方史など文脈的な特集記事も、批評や対話を通じて紹介していく予定です。
ただし、そうした歴史的背景を本プロジェクトのマッピングに直接反映させることは、現時点では私たちのリソースを超えており、地図上で紹介する活動は「現時点で動いていること」を条件とさせていただいています。
名前の由来
daitai art mapという名前は、札幌をベースに活動し、その地域のアートシーンを長年にわたり耕し続けてきたアーティスト/オーガナイザーの高橋喜代史さんによって名付けられました。
そこには、「オルタナティブ」の直訳である「代替(だいたい)」という意味と、活動に共通する“ある種のゆるさ”を象徴する「大体(だいたい)」という感覚とのダブルミーニングが込められています。
日本列島をモチーフにしたビジュアルマップも、高橋さんによる描き下ろしです。
私たちにまだ見えていなかった足元の地平。 その遥かな広がりと限りない深淵の、ほんの入口に過ぎませんが——
このプロジェクトが、皆さま一人ひとりの手によって開かれる扉となることを願っています。