岡⼭県南の瀬⼾内海にある⻑島は、1930年(昭和5年)に⽇本初の国⽴ハンセン病療養施設「⻑島愛⽣園」がつくられた場所で、現在は元患者(2025年7⽉時点で68名)と職員の住居、ハンセン病に関する歴史館などがある。そこに「喫茶さざなみハウス」はある。バスの待合所として、また島に娯楽の場所が欲しいという⼊所者らの希望により、2019年にオープン。現在は⼊所者と島外から訪れる⼈たちが交わる⾵通しのいい場となっている。いちめん⽔⾊の店内は、⽬の前に広がる海と⼀体化するような美しさがあり、その⾵景を⾒るためだけに訪れる⼈もいるという。
店内には店主・鑓屋(やりや)翔⼦さんセレクトの書籍(これまた魅⼒)やアーティストとのコラボ企画で⽣まれた写真集やCDなどが、⻑島の古い⽣活道具、⼊所者たちの⼿で編まれた機関誌「愛⽣」(現在なお刊⾏中)などと並んで⾃由に閲覧することができる。これらは、鑓屋さんが⼊所者や職員たちとの関係性を深めるうちに集まってきたという。鑓屋さんは、店に訪れる彼らと静かに⾔葉をかわす。鑓屋さんが⼤切に積み上げてきた時間がこのさざなみハウスという場をつくっているのだと思う。さざなみハウスでは、島の歴史・記憶のアーカイブにも取り組んでいる。いくつか紹介したい。配信動画「⻑島ストーリープロジェクト <voice>」では⼊所者や職員の⽅々が語る島の暮らしやこぼれ落ちる⼈⽣観などを、映像と⽂章を通して知ることができる。ポッドキャスト「何か不⾜」では、さざなみハウスのスタッフと常連客のラフなやりとりから、なんとも魅⼒あるみなさんの⼈柄に触れることができてとても⾯⽩い。「⻑島ストーリープロジェクト <story>」は、2022年の愛⽣園のハーモニカバンド「⻘い⿃楽団」(1953-1978)の復刻版をつくったのがきっかけで始まった。リーダーだった近藤宏⼀さん(1926-2009)の⾳楽や詩の世界を、⾳楽家・阿部海太郎、トウヤマタケオ、当真伊都⼦が現代に再現。それ以降、ダンサーやミュージシャンらが島に滞在し作品を制作している。島の時間からできた数々の作品は、ここでしか⽣まれ得ないものだろう。
この場にはあらゆる時間が交差している。⼈と⼈を隔てるものはなく、波のようにたゆたう時間が⼊所者と訪れる者を繋げる。ハンセン病・隔離・⼈権といった⾒過ごし難い、しかし固くなりがちなテーマに、⽇常・暮らし・アートというフィルターが通ることで等⾝⼤で触れることができる。とても稀有な場所だ。岡⼭まで来られたら1時間弱で⾏けるので、ぜひ⾜を伸ばしてみてほしい。



