現代食堂 あむりたの庭、そして音楽

「現代食堂」という異界に迷い込む――石垣島オルタナティブの霊性

石垣島の“文化的磁場”とでも呼びたくなる、不思議な引力を持つ場所がある。運営するのは、デザインや映像制作を手がけつつ、映画祭や音楽イベント、芸術祭などに関わってきた宮本進吾と、その妻でユタの血を引く料理長・宮本さゆりだ。彼らは、妻の実家がある石垣島を拠点に、琉球文化とも一線を画す八重山の霊性へと、食と文化を通じて我々を導いている。

「現代美術があるなら、現代食堂があってもいい」。宮本のそんな発想は、店名にそのまま現れている。店内では、料理長が祖母から受け継いだ島の伝統的な味をベースに、現代的なエッセンスを加えたチャンプルー料理やカレーが提供される。空間には、音楽やアート、文学書が所狭しと並び、アナログレコードからラップトップミュージックまで、多様な音が流れる。ギターやDJブースは、近所の子どもたちの遊び道具でもあり、小学生たちの“現代寺子屋”のような場にもなっている。

開催されるイベントも実に多彩だ。芸人・村本大輔の独演会、社会学者・宮台真司によるトークライブ、こだま和文や七尾旅人らによるライブパフォーマンスなど、ジャンルも背景も異なる表現者たちが自然と集まってくる。それはよくある“誰々の紹介”と敷居を上げる“セレブ御用達”の方法論とは違う、この場所自体の磁場に基づいたコミュニケーションだ。

特筆すべきは、宮本の感受性と直観力の鋭さだ。筆者も、うっかりカレー屋に迷い込んだひとりなのだが、あれよあれよと島の奥地のスピリチュアリズムへと導かれ、いつしか石垣島の深層(日本の最深部と言って良いだろう)に触れる旅が始まっていた。偶然は重なるもので、一口食べたそのカレーの味は、20年以上前に吉祥寺で出会った、忘れがたい味そのものだったのだ。料理長は、かつてその店を営んでいた本人だった。この偶然とも必然ともつかない再会が、僕らを毎年この島へと向かわせることになった。

ここは、ただの飲食店でもカルチャースペースでもない。食、音楽、芸術、思想、そして霊性と人間が交差する、石垣島における異彩のオルタナティブ拠点である。

画像提供 : 現代食堂 あむりたの庭、そして音楽
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現代食堂 あむりたの庭、そして音楽

住所:沖縄県石垣市大川282 櫻花ビル