広島駅新幹線口から北へ、かなりの勾配の坂を登ること15分。二葉山の斜面に建つレモン色の建物が見え、その脇の森の小道のような階段を降りていくと資料室の入り口がある。加納実紀代氏の蔵書と研究資料を引き継いだ高雄きくえさんが2023年に開いた。加納氏は被爆者でもあり、「銃後史ノート」で知られる女性史研究家のパイオニアのひとりだ。
広島駅、広島市街、瀬戸内海までが一望できるカウンターにはパソコンが一台設置されている。高雄さんは資料室を開放しながら膨大な資料のデータをこつこつと整理しているのだ。また、加納実紀代研究会を発足し2ヶ月に1度の研究会やシンポジウムを開催、また、美術家・評論家と共催でリサーチ・アートアワードを設立するなど、資料と人が交差する場を作っている。
びっしりと詰まった書棚を進んでいくと一番奥にギャラリースペースがあり、時折展覧会が開催される。喧騒を離れた空気の中、作品と資料に没頭していると時間の感覚さえ薄れていく。しかし、ふと気づくと高雄さんがそっと温かいお茶をいれてくれたりする。その場に居合わせる人との会話や、山をくだりながら考えを巡らせつつゆっくりと元の日常に戻っていく時間まで、すべてをひっくるめてこの場所の魅力だと思う。
