座談会②
参加者:岩田智哉(The 5th Floor/東京)、上田陽子(金沢アートグミ/金沢)、城野敬志(art space tetra/福岡)、松波静香(ギャラリーG/広島)
モデレーター:池田佳穂

各リサーチャーに声をかけた理由
池田:座談会②の進行を務める池田佳穂です。最初に、座談会②のみなさんも卯城さんのお声掛けで集まったということで、最初に卯城さんから簡単にご紹介いただけますか?
卯城:上田陽子さんは金沢で「金沢アートグミ」というスペースを運営されています。直接お会いするのは今日が初めてですね。上田さんは、インディペンデントキュレーターの長谷川新さんと話していた際、彼もいろんな場所を見ている人ですが、先輩として紹介いただいて、お話を聞いてみたらいろんなことを知っているし、されている活動も面白いということで、北陸を中心にお願いさせていただきました。
岩田智哉くんは、東京の根津にある「The 5th Floor」というスペースを2代目のディレクターとして運営しています。ここは「キュラトリアル・スペース」を謳っていて、世界的にも珍しいそうですが、キュレーターたちの国際的なハブのような場になっている。また智哉くんは、アジアのオルタティブ・シーンをリサーチして、Tokyo Art Beatで「オルタナティヴの複数性」という連載もやっているので、ある種専門家としてお呼びしました。
松波静香さんは、僕たちChim↑Pom from Smappa!Groupが広島で活動する際にずっと支えてくださっている方です。松波さんが勤めている「ギャラリーG」は、木村成代さんというもう少し上の方が始めた場所ですが、コロナ禍くらいからここも含めて広島のシーンで松波さん世代が活躍し始めていると聞いていて。「広島ギャラリーマップ」というマップや、「ひろしまアートシーン」というウェブをつくったり、最近も「Hiroshima Art Galleries Week」という催しを始めたりしているということで、お声かけしました。
城野さんは福岡で「art space tetra」というスペースを運営されているのですが、それこそ昨年、「WHITEHOUSE」で智哉くんたちも含めてアートスペースに関するトークをしてもらったんですね。そこでのお話がとても面白くて。福岡は重要な場所だと思っていて、有名な「gallery SOAP」の話はよく聞くし、SIDE COREと関わりの深いBABUさんのようなストリートの人、あるいは坂口恭平くんなど、いろんな人が関わりながら地域独自の動きをしている気がして。国内外含めて知識をお持ちということで、ぜひと思いました。
最後、バトンタッチする前に、進行の池田さんもコレクティブやオルタナティブな活動に注目されているインディペンデント・キュレーターです。僕たちとは以前勤められていた森美術館で知り合ったのですが、それ以前から高円寺の「素人の乱」という、Chim↑Pomとも界隈が近い商店街の人たちとつながりがあるんですよね。そこからインドネシアなどでキュレーションの実践を積まれ、同じく同国拠点のコレクティブ、ルアンルパが芸術監督を勤めた「ドクメンタ15」においてテーマに掲げていたアートとコミュニティについても日々考えているので、まさにピッタリと思って運営にお誘いしました。
各地で立ち上がる、コミュニティのプラットフォーム
池田:ありがとうございます。では、ここからバトンタッチしまして、第1部と同様、みなさんがどのような着眼点で活動を選ばれたのか、お話を伺っていきたいと思います。
城野:「九州」という括りで話をもらったのですが、九州は非常に広いので、どう選定するか悩みました。僕自身の拠点は福岡にありますが、福岡にはすでに有名なオルタナティブスペースが多い。そこで、あえてそういった「メジャー」ではない場所、そして人の顔が見える、アーティスト自身が運営しているようなスペースを中心に選びました。
それと、九州以外も含めて良いということだったので、長野、愛知、大阪、沖縄などからも選んでいます。実際には約20件ほどリストアップしましたが、最終的には11件に絞りました。全体としては、なるべく地域的にも分散させることを意識しました。
松波:何を基準に選んだか、明確に言語化するのは難しいのですが……。私も当初は「中四国担当」と言われたんですが、それだと範囲が広すぎて分からないので、「広島だけにさせてください」とお願いしました。広島はコンパクトな街なので、紹介しているのも知り合いばかりなのですが、自分が行ったことがあるスペースや、外から見て面白いと思う 、いわゆるギャラリーマップや観光マップなど、既存の枠で扱われにくい場所や可視化されにくい活動を選びました。
依頼された後、「daitai art map」という名前になると聞いて、なんとなくそれなら自分の選び方で合っていると感じ、安心しました。たとえば女性史研究者で被爆者でもある加納実紀代の資料を公開している「加納実紀代資料室 サゴリ」は、アートと資料が交差する場所として広がりが生まれているのが面白いと感じて選んでいます。主宰の高雄きくえさんは、当初、アートに関心のある層の方がこんなに来る場所になるとは想像していなかったそうです。
「Alternative Space CORE」は、Chim↑Pomの水野俊紀くんや久保寛子さんが始めた場所です。広島には、広島市立大学に芸術学部があることもあり、卒業生がスペースを始めるなどの動きがあります。20〜40代ぐらいの世代も活発に動いているという印象です。
岩田:先ほどご紹介いたただいた通り、僕はアジアのオルタナティブなシーンをリサーチしています。このお話をいただいたのもちょうど台湾でタピオカミルクティーのお店に並んでいたときで、勝手に感傷に浸っていました(笑)。
東京はオルタナティブスペースが星の数ほどあって、中立的に網羅するのは難しい場所です。なので、どういう基準で選ぶか悩みましたが、ひとつそれらを突き刺すごんぶとの軸として、「コミュニティのプラットフォームになっている場所」を意識して選びました。
基本的に現代アートにフォーカスしたスペースですが、高円寺の「NAM NAM SPACE」は少し異なり、タトゥーイベントなども行う広い意味での文化スペースです。ここは海外の人も含めてさまざまなマイノリティが集まれるセーフスペースとして機能しています。
池田:若い世代のスペースを網羅してくださっていて、個人的にも参考になりました。東京ではスペースが始まっては消えるという流動性が高いので、こうしてピックアップされることは活動者にとっても励みになると感じます。

上田:私も「北陸を頼みます」と言われて、「えっ、大きい」と思いました(笑)。金沢は金沢21世紀美術館があるので、メディアでも取り上げられることは多いですが、今回はあまり紹介されていないスペースやコミュニティを中心に取り上げました。ただ、明確に「オルタナティブスペース」を標榜している場所はあまりなくて、生きるために自分たちのやり方で実践している、というスペースが多いと思います。
広島と同じく金沢にも金沢美術工芸大学があり、その卒業生がスペースを立ち上げたり、アート以外の業種の方がスペースを始めたりさまざまな活動があります。今回紹介したのは、そうした動きのなかでもとくに「楔を打っている」と個人的に感じる人たちです。
池田:私自身もリサーチャーとして記事を書いたので、少し紹介させてください。私は最初に、素人の乱や、建築家集団の「西村組」が神戸で運営する「廃屋グループ/梅村」、高松の古書店「なタ書」など、アートスペースという枠には括れないけれど文化的なコミュニティを形成している場所を選びました。そしてその後、daitai art map全体のバランスを取るためにも、制度的に運営されているけれど独自性のある活動を展開している場所を紹介しました。
リサーチしていたインドネシアのシーンにも通じますが、私もほかの方たちと同じように、美術としての活動に限らず、多種多様な運営形態を通じて自治区やコミュニティを生み出している実践に関心があって、そういった観点から選びました。
続けることの難しさと、地域への思い
池田:ここからはディスカッションに移りたいと思います。気になるのが、座談会①でも挙がった中心と周縁の話題です。東京が「中心」とされがちだけど、自分たちが住む地域こそが中心なのでは?というお話でした。それで言うと、私は九州を、東京と比較する必要がないほど独自の文化的な地域だと感じるのですが、城野さんはどう感じられますか?
城野:そうですね。例えば福岡では、1950年代の「九州派」や、現在は横浜の黄金町エリアマネジメントセンターにいる山野真悟さんなどが関わった1990年代の「ミュージアム・シティ・プロジェクト」など、美術史に残るような動きがあり、そのなかには現役で活躍されている方もいます。「対中央」の意識はあったかもしれませんが、それ以上に、九州独自の文化圏や生態系をつくろうとする動きは強かったと思います。
池田:ちなみに、九州には美大が多くないと思うのですが、それにもかかわらず、美術的な動きや文化的コミュニティが育ってきた背景には、どんな要因があると思いますか?
城野:美大が少ない点については個人的に少し悔しさも感じますが、東京から戻ってきた人が活動を始めてシーンをつくるという流れはあると思います。とくにミュージアム・シティ・プロジェクトの頃は盛り上がっていて、資料もたくさんあります。福岡アジア美術館というアジアに特化した現代美術館があるのも大きいですね。「福岡が盛り上がらないと九州全体も盛り上がらない」という、地方としてのプライドもあると思います。

池田:もうひとつ、城野さんは2019年から「art space tetra」というスペースにも関わられています。私も行ったことがあるのですが、こちらは2004年に立ち上げられて、さまざまな人たちによって引き継がれているんですよね?
城野:そうです。初代のメンバーが非常に強力だったんですが、tetraはもともと同じジャンルの人だけで集まる場所ではなくて、デザイナー、キュレーター、アーティスト、ミュージシャンなど、さまざまな領域の人たちが関わっています。メンバーは代替わりしながら自然と循環していて、大きく分けると1期、2期、3期みたいな流れはありますが、人や時代が変われば価値観も変わるし、それが活動内容にも反映されるようなスペースです。だからこそ、22年間ずっと「生きている場所」であり続けていると思います。
池田:素晴らしいですね。先ほども続けることの意義が語られていましたが、同じ人たちが続けるというかたちもあれば、世代を越えてバトンを渡していくかたちもある。継続の複数のあり方についても考える余地がありますね。城野さんから「プライド」というお話もありましたが、松波さんは広島で活動することに関して、似た思いはありますか?
松波:プライドかぁ……。どうでしょう、広島ってじつは全国的にも県外への転出が多いとされていて、身近なところでも水野くんや久保さんは関東に移住されました。ただ、広島の人は、私自身も含めてみんな広島が大好きだと思います。でも、まだその魅力に気づいていない人も多いと思っていて、もっと知ってほしいという気持ちはあります。
2023年に始まったHiroshima Art Galleries Weekも、私個人としてはそういった思いもあって参加しています。広島にはギャラリーはたくさんあるけど、同時期に開いていることは意外と少ない。そこで会期を揃えて、周遊しながらいろんな場所に足を運んでもらおうという企画です。ここでもやはり、続けていくこと自体が大きな課題になっています。
池田:継続するうえで、とくに難しい点はなんですか?
松波:やっぱり運営する人のパワーですね。広島ってプレーヤーが少ないので、展覧会企画も、運営も、ツアーも、という感じで、いろんな役割が集中してしまう。やりたいことは多いけれど、マンパワーが足りない。そこが一番の課題かなと思います。

上田:金沢でも、ギャラリーが20軒くらい集まって、パンフレットをつくって連携しようという動きがあり、10年くらい前に行っていました。コロナで止まってしまったのですが……。でもやっぱり、足並みは揃いにくいですよね。
松波:人が集まると複雑にはなっていきますよね。
上田:いろいろな考えのもとに各々活動をしているから、ひとつの企画としてまとめていくのが大変だった記憶があります。だけど、いまみたいな話を聞くと、やっぱり継続した方がよかったのかなと思いますね。
松波:やることで人が動くんですよね。県外からも人が来るし、ひとつの場所だけじゃなくて、まとまりとして、広島の「面」としてアートシーンが可視化される。それはすごく良いことだなと思います。
上田:金沢の場合、工芸系も含めて、スペースやコミュニティはいま30軒くらいはリストアップできます。ただ、連携して何をするのかという目的や意義、その手応えが見出せなくなったことも、中止した一因でした。タイミングが合えば、またやりたい。
池田:確かに、明確な理由やモチベーションがないと動けないですよね。
上田:「お祭りです!」って言い切った方がやりやすいかもしれません(笑)。

松波:1980年代、1990年代にも、似たようにアーティストが集まってイベントをしていたことがあるんですけど、それも3回目くらいで継続が難しくなったそうです。
池田:「3回目の壁」ってありますよね。
松波:あると思います。
池田:スペースも、始めて3年目くらいが分水嶺と言われますね。ちなみに、さっき吉田さんが「新潟はみんな東京を向いている」と話していましたが、金沢はどうですか?
上田:あまり、一定の方向というのはないかもしれません(笑)。
池田:横のつながりはあるんですか?
上田:つながりはありますが、レイヤーが分かれている感じで、みんなで肩を組むような徒党感はないです。ただ、大体のスペースが3キロ圏内にはあるから、「やっているな」と感じる人たちはいる。何となく周囲の頑張りを感じつつ、自分は自分のやり方でやっているというスタンスです。あくまでも自分たちの活動としてやっているので、それを情報として東京などに出そうしているかというと、そうでもない。そんな感じがします。
池田:実際、今回ご紹介いただいたなかには、東京のメディアでは見かけないスペースも多くて、とても貴重だなと感じました。「Keijiban」も面白いですね。
上田:そうですね。「Keijiban」はベルギー出身のオリビエ・ミニョンさんという方が始めたスペースなんですけど、日本の「掲示板文化」に興味を持って、街頭で24時間いつでも作品が見られるように展開しているものです。彼はいろんな場所を借りていて、ほかにも「Yonkai」っていうスペースや、その押し入れ部分を使った「Oshiire」と言うスペースも運営しています。本当にみんな、自分の哲学でやっているのが特徴だと思います。
変化し続けるマップと、広がる「オルタナティブ」
池田:岩田さんがご紹介くださったスペースは、新しいものもありますが、The 5th Floorも含めて3年以上続けている場所もありますよね。都内で場所を続けることはすごい難しいと思うのですが、そのあたりの事情やお考えについてお聞きできますか?
岩田:前半の座談会でも「続けるのか続けないのか」問題が挙がっていましたが、逆に東京のオルタナティブ・シーンでいうと、そもそも続けることを目的としていない場所も多い印象があります。例えば、もともと掲げていた一定のゴールを達成したとき、場の役割を終えたとして、閉じる場合もある。あと、東京にいる人は地元ではない人も多いし、みなさんのお話にあったように、東京は人生の区切りのタイミングでむしろ「離れる」場所である場合も多いので、「ずっと続ける」ことと人生モデルが合わないこともある。
僕自身も、The 5th Floorを続けたい気持ちはありますが、自分がずっと居続けるつもりはないです。むしろ、新陳代謝できるようにしないと、内輪感が出て風通しが悪くなる。
今回のプロジェクトの「daitai」って、「代替」つまり「オルタナティブ」という意味もあると思うのですが、まさに「既存のシステムに対するもうひとつのやり方」というのが、それぞれのスペースの実践だと感じています。そのなかで、「続けること」そのものが必ずしも重要でないというのは、インスティテューションの多い東京ならではのひとつのローカリティなのかもとも思います。

池田:確かに、それも東京のキャラクターかもしれないですね。それで言うと、The 5th Floorがエデュケーションプログラムを始めたことも、いいなと思っていて。場所を続けるだけでなく、土壌を耕して下の世代とつなげる。そのための設計があるのが良いですね。
岩田:ありがとうございます。実際、さっきプラットフォームの話もしましたが、僕が紹介したスペースって、教育プログラムをやっているところが多いんですよ。卯城さんもご自身が担当する東京藝術大学の講義を毎回、WHITEHOUSEでやられていますが、The 5th Floorの近くにある「AVA artist-run-space」という場所では、藝大や多摩美術大学、武蔵野美術大学などの学生が、「大学での授業では自分たちのリアリティが反映されていない」として、自分たちで教育プログラムを組んで、ゲストを招いてゼミをやってます。既存の教育に対して不足感を感じる若い世代が、自ら実践している。そうしたリアリティがいまあるように感じます。
城野:今日、地方の話がたくさんありましたが、そこで対象とされる東京で活動されているなかで、逆に「地方」のことを意識したりすることはありますか?
岩田:さっきの話ともつながるのですが、僕自身も東京出身ではなくて、そもそも権威主義的な考え方も苦手なので、東京中心的な考えにはアンチなんですよね。なので、自分がいまいる東京という場所も、「中心」として捉えるのではなく、あるローカリティを持つひとつの場所として捉えることは意識しています。
そのローカリティのひとつとして、東京には「面」として活動することが難しいという特性があるのではないかと思います。さきほど上田さんが、金沢はだいたいの場所が3キロ圏内にあるとお話しされていて、広島も福岡も自転車があれば多くの場所を巡れるとお聞きしたのですが、東京にはそうしたある程度の広い規模を持ったまとまりという意識は少ないように感じていて。では、そうした場所においてどんな活動を展開するのか。今日のみなさんのお話しを聞いて、また考えてみたいと思いましたね。
池田:ありがとうございます。持続性や、地域間のつながりなど、いろいろと問いや課題が立ち上がったと思うので、このあとの交流会で他の方も交えて深掘りしましょう!
卯城:そうですね。あらためて今日はありがとうございました。今回は東京にお呼びしてしまったのですが、このプロジェクトを運営している「Tocasi」の長谷川知栄さんが「すべての拠点を回るのが夢」と話されていて、僕もそう思っています。いろんな地域を回れるプログラムを今後はつくっていけたらいいなと考えています。
それと、このマップで扱う活動はこれからもどんどん増やしていきたい。そのとき、リサーチャーごとに「オルタナティブ」の基準が違うことがひとつのポイントになると、この座談会を通して思いました。たとえば、今日は参加していないけど、SIDE COREの松下徹さんは、山梨の北杜市にある中村キース・ヘリング美術館という、一見するとインスティテューションっぽい場所を選んでいるんですね。それで理由を聞いたら、「クィアな人たちによって運営されているから」という視点だったんです。
そんなふうに、いろんな理由からさまざまな活動が選ばれていくことで、このマップの全体像がいい意味で書き換わり続けたら面白いんじゃないかな、と思っています。
執筆:杉原環樹
撮影:金川晋吾